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子供の矯正(顎骨発育誘導)について

子供の顎骨発育誘導について

はじめに

子供の口腔内は成長発育の途上にあり、歯の萌出や顎の骨の発達は全身の成長と密接に関係しています。とくに顎骨の成長は顔貌の形成や咬合関係に大きく影響を与えるため、異常や不調和が生じると、将来的に不正咬合や顎変形症、さらには咀嚼・発音・審美面での問題につながる可能性があります。こうした背景から、小児歯科や矯正歯科領域では「顎骨発育誘導」という考え方が重要視されており、子供の成長期を利用して正常な顎の発育を促す治療・管理が行われています。

以下では、顎骨発育の基礎、発育に影響する因子、問題が起きた場合の症状、そして顎骨発育誘導の方法について詳しく解説します。


顎骨の発育と成長の仕組み

顎骨には上顎骨と下顎骨があり、それぞれ異なる成長様式を持っています。

  • 上顎骨の発育
    上顎骨は頭蓋顔面骨の一部として発育し、縫合部の骨成長や骨表面での添加・吸収によって拡大していきます。特に上顎歯列弓の幅径や長径は、鼻腔の大きさや呼吸機能とも関連して発達します。

  • 下顎骨の発育
    下顎は関節(顎関節)を持ち、成長の中心は下顎頭の軟骨部分にあります。これにより下顎は前下方へと成長していきます。下顎の成長は個人差が大きく、思春期成長スパート期に顕著に進むことが知られています。

  • 歯の萌出との関係
    顎骨の発育は歯の萌出スペースの確保に大きく影響します。顎が小さいと永久歯の萌出スペースが不足し、叢生(歯並びのガタガタ)や交叉咬合、開咬などの不正咬合を引き起こします。


顎骨発育に影響を与える因子

  1. 遺伝的要因
    両親の顔貌や顎の大きさは子供に遺伝する傾向があります。下顎が突出しやすい骨格性反対咬合などは家族内に多く見られます。

  2. 機能的要因
    咀嚼、嚥下、発音、呼吸といった口腔機能は顎の成長に大きな影響を与えます。例えば口呼吸や舌突出癖があると、上顎の狭窄や開咬が起こりやすくなります。

  3. 習癖
    指しゃぶり、爪かみ、頬杖などの癖は顎の成長方向に悪影響を及ぼします。長期に続くと歯列不正や顎の変形の原因となります。

  4. 全身の成長と栄養
    栄養状態や成長ホルモンの分泌、全身の健康状態も顎の発育に直結します。とくにタンパク質・カルシウム・ビタミンDなどは骨の発育に欠かせません。


顎骨発育に問題が生じた場合の影響

  • 歯列不正:叢生、開咬、過蓋咬合、交叉咬合など。

  • 咬合機能の低下:咀嚼効率の低下、発音障害。

  • 審美的問題:顔貌の非対称、出っ歯や受け口などによるコンプレックス。

  • 顎関節症リスク:不正咬合による顎関節への負担増。

  • 呼吸障害:上顎の狭窄は鼻腔や気道を狭め、口呼吸や睡眠時無呼吸のリスクを高める。


顎骨発育誘導の目的

顎骨発育誘導とは、子供の成長期に合わせて顎の正常な発育を助け、不正を予防または改善することを目的とした治療や指導を指します。具体的な目的は以下の通りです。

  1. 歯が正しく並ぶスペースの確保

  2. 上下顎の調和的な成長を促進

  3. 咬合関係の正常化

  4. 口腔機能(咀嚼・嚥下・発音・呼吸)の改善

  5. 顔貌の審美的調和の確立


顎骨発育誘導の具体的方法

1. 生活習慣・機能の改善

  • 口呼吸から鼻呼吸への切り替え:耳鼻科との連携も重要。

  • 舌の正しい位置づけ:MFT(口腔筋機能療法)により舌・口唇・頬筋のバランスを整える。

  • 悪習癖の改善:指しゃぶりや頬杖をやめる指導。

2. 装置による顎の誘導

  • 拡大床(エキスパンジョンプレート)
    上顎が狭い場合、歯列弓を横に広げる装置。成長期なら骨ごと拡大可能。

  • 機能的矯正装置
    バイオネーター、フレンケル装置などを用いて、下顎の前方成長を促したり筋肉機能を改善したりする。

  • マウスピース型装置
    筋機能のバランスを整える柔らかいマウスピース。習癖の改善や軽度の不正咬合に有効。

3. 早期矯正治療

  • 永久歯列完成前に行う第一期治療(小児矯正)で、顎の骨格的不調和を改善する。

  • 重度の場合は思春期以降に本格矯正(第二期治療)が必要となるが、早期介入により難治化を防ぐ。


顎骨発育誘導の効果とメリット

  1. 永久歯の抜歯矯正を回避できる可能性が高まる。

  2. 成長期を利用するため、成人矯正よりも骨格の改善効果が期待できる。

  3. 顔貌の審美的改善により、心理的な自信が高まる。

  4. 正しい口腔機能を身につけることで、将来の歯周病や顎関節症の予防につながる。


注意点と限界

  • 成長が終了した後では顎骨発育誘導は効果が限定的になる。

  • 遺伝的要因が強い場合、完全な改善が難しいこともある。

  • 装置の使用には本人と保護者の協力が不可欠。

  • 長期的なフォローアップが必要であり、一時的な改善に終わらせない工夫が求められる。


まとめ

子供の顎骨発育は、顔の形態や歯並び、咬合、さらには呼吸や発音といった基本的な機能に大きな影響を及ぼします。顎骨発育誘導は、成長期という限られた時期を活かして行う予防的かつ治療的アプローチであり、将来の不正咬合や顎変形を未然に防ぐことが可能です。

そのためには、保護者が子供の口腔内の発育状況に関心を持ち、定期的な歯科健診を受けることが大切です。小児歯科や矯正歯科の専門家と連携しながら、生活習慣の改善や装置治療を適切に行うことで、健康で調和の取れた口腔・顎顔面の発育を導くことができるのです。

監修者情報

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